さて、いろいろと説教くさいことを言っておきながら、自身のこれまでのブログを評すると、ものの見事に「参考するに値しない」ことが判明し、自己嫌悪に陥ってしまったえびすが紹介する本はこちら。
ビジネスにおける仮説思考とは何か?一文で表現すると『仮説をたてて、実験を行い、データを分析・検証して、次のステップに移る、その一連の思考法』である。耳で聞くと「なんだ、簡単なことじゃないか」と多くの方は思うことだろうが、実際にこれを実行するのは結構難しく、実行すると途中で投げ出したくなる、いや投げ出す人が多数いることだろう。仮説思考の具体例として、私の大学院での研究スタイルがちょうどいい参考になると思うので紹介する。
私の指導教授は、「理論に裏付けされた実験結果の予測」を最初に要求する方であった。教授が突っ込む内容に対し、しっかりとした理論に基づいて受け答えが出来ない段階で試験に取組むことはなかった。しかも、4年生で配属になったあとに、知識の蓄積もままならない状態でこのような要求を突きつけられるものだから、こちらとしてはどうしようもない。ただ、教授も鬼ではないので、助言はしてくれる。こんな感じだ…「これに関連する分野の英語論文が100本くらいあるだろうから、そのうち40本読み込めば大体の全体像は掴めるようになる。日本語?参考にしちゃ駄目だよ。世界一流の研究結果は英語で発表されているのが常だ…そうだね、一ヶ月もあれば大丈夫だよね?」
これはかなり堪えた…何せ、一ヶ月で40本も英語の論文を読まなければいけないからだ。しかも、そこに書いてある数式は意味不明なものばかり。統計調査のような論文なら容易く読めることかもしれないが、実験、しかも数式の理解から入っていかなければいけない論文に取り掛かるには、結構な時間を要する。幸い、時間だけはたっぷりあったので、一本一本読み込んでいった。勿論、数式を追うだけで、内容をすべて理解できる論文などほとんどない。それを続けること20本くらい読み込んだ辺りから、ふと論文の内容がすーっと理解できるようになってくる。「これまでに読んできた論文のあの考察とこの論文の考察結果は似ているな」「この数式はこんな理論があって成り立っているのか」
この段階までくると、論文を読むことが苦でなく楽しみに変わっていった。以後大学院における私の趣味は「論文を読むこと」になってしまったほどである。
読み込んだ論文を糧に自身の考える実験結果の予測を立て、実際に実験しデータの分析・検証を進めていく。勿論、予測通りの結果になることは少ない。そのときは、もう一度理論に立ち返ってデータを検証し、仮説に修正を加えて実験を行う。このサイクルの繰り返しの毎日だったように思う。
さて、あまりに長々と私の研究生活時代を振り帰って紹介しても仕方ないので、書評に戻ろう。おそらく皆様もお気付きのことおだと思うが、上に挙げた私の研究スタイルと、本書に記載されている仮説思考とは通じ合うところが多々ある。仮説を立てて、それを検証し、検証結果をもとに仮説を修正し、もう一度検証する・・・一方は研究というフィールド、他方はビジネスというフィールドではあるが、双方とも基軸とする時間の流れはほとんど同じであるに違いない。
ただ、研究とビジネスで大きく異なる点もある。それは、仮説をたてるまでのスピードの速さだ。トライ&エラーで実験を進めて行かざるを得ない研究は別にして、大学で行う基礎研究は、仮説を立てるまでに結構な時間を要する。とりわけ、数式を緻密に扱う研究にあっては、実験結果をモデル化(仮説の中身が細かい)するまでに、相当な労力を要するのは間違いない。一方、ビジネスにおいては、そこまで緻密に数式を用いるわけでなく、大局観さえ掴めていれば、それに基づいて仮説を立てる(仮説の中身がおおまか)ことができる。ある程度仮説が整えば、すぐに検証にもって行く場合が多いだろう。
しばしば、世間では「じっくり考えることが大切だ」「すぐに答えを出すことこそ、真に能力が高い証拠だ」といった議論を耳にする。私はどちらにも与する者ではない。欲張ではあるが、双方の能力が必要であると考えている。…もちろん、自身、考えているだけで身についていないのは身にしみて感じているわけではあるが…。
本書は上述した「仮説思考の流れ」だけでなく、有効な仮説の立て方、仮説の構造の作り方、仮説思考力の鍛え方等についても、著者の経験に基づいて詳細に述べられており、参考になる・できる点が多々ある。ビジネスマンだけでなく、研究者にも是非読んでいただきたい書籍だ。
※さて、久しぶりに自身の大学院の研究生活を振り返ってみると、いい環境で研究させてもらったなぁとしみじみ思います。特に、基礎体力として大量の文献を読み込み、その分野に精通することの大切さと応用の利かせ方は、終了後の今でも様々な場面で活かすことができています。いや、むしろ、進化しているといったほうがいいくらい。このブログでも何度も言っていますが、自身の経験に照らし合わせても、詰め込み(インプット)はもの凄く大切なことです。インプットが無い状態で、新しいことを始めようとしても、9割以上は上手くいかないでしょう。仮に成功したとして、その成功の恩恵が時間とともに薄れてきても、依然としてその成功にしがみつき、いつの間にか孤立・凋落していることがしばしばあるのではないでしょうか。初心者の心意気を忘れずに、着実とインプットを増やし、新しい(とはいっても、インプットの賭け合わせだったありするのですが)何かを生み出していく、そんな人生を送りたいものです。
